産業保健に関するさまざまな問題について、専門の相談員が皆様のご相談に応じております。その一部をQ&Aとしてまとめてみました。
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産業保健Q&A検索(労働者健康福祉機構HP)
目 次
1 安全衛生管理体制について
Q1-8. 産業医の選任義務の労働者数のカウントは? 2010.11.12
Q1-7. 「職長教育」の「職長」は誰のこと? 2010.5.28
Q1-6. 産業医の選任はどうすればよいか? 2010.5.28
Q1-5. 職場巡視はどのように実施すればよいか? 2010.2.22
Q1-4. 労働者が50名以上になったらしなければならないことは? 2010.2.15
Q1-3. 安全衛生委員会を設置の根拠は? 2009.10.14
Q1-2. 会社の上司に安全配慮義務を理解させるには 2008.3.25
Q1-1. 衛生管理活動はどのように展開するか 2007.9.25
2 労災補償について
Q2-5. 業務とは関係ないと思われる疾病の労災申請を本人が望む場合 2010.10.22
Q2-4. 腰痛の労災認定基準は 2010.9.9
Q2-3. 定年退職後の労災補償 2009.2.6
Q2-2. 派遣労働者が派遣先で怪我/労災保険給付の手続きは 2008.12.24
Q2-1. 過重労働でうつ病/休職期間満了の解雇が無効となる場合も 2008.10.22
3健康診断について
@ 全般
Q3/h4> (1) VDT健診は事業主に義務付けられているのですか?
(2) 義務付けられているとすれば、どのように義務付けられているのですか?また、その義務を怠るとどのような措置が下されるのですか?
A3-C-1.
労働安全衛生法では、一般健康診断、特殊健康診断を、罰則を伴ったものとして義務付けています。しかし、VDT健診はそれとは別ですので、強制的な義務ではありません。
VDT健診は、古くは昭和60年の通達によりますが、現在有効なのは平成14年4月5日付、基発第0405001号通達「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」に定められています。
これは通達ですから、強制力はありません。ただ、「VDT作業についてはこのような管理が必要である」と公に示されているのですから、それを怠った場合には民事的な意味で責任を追求される恐れはあります。
ぜひ「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を読まれることをお勧めいたします。
▲目次へ戻る▲ 4 面接指導について
Q4-4.医師の面接指導 労使で労働時間数が異なる場合は
残業などを月に100時間を超えて行った労働者が申出をした場合は、医師による面接指導を行うことが義務付けられています。
ところで、会社に報告された残業時間数は100時間を超えていませんが、本人は100時間を超えて残業を行ったと主張しています。確かめるには時間がかかります。どうしたらよいでしょうか。
A4-4. 事業者は、労働者の健康の保持のため、労働安全衛生法第66条の8の規定により、1週間当たり40時間を超えて労働させた時間が1月当たり100時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者について、労働者の申出により医師による面接指導を行わなければなりません。
時間数の計算は次の算式で行います。
- 1ヶ月の総労働時間数(労働時間数+延長時間数+休日労働時間数)−(計算期間の総暦日数÷7×40)
この算定方法は、特例措置対象事業場でも変形労働時間制採用事業場でもフレックスタイム制採用事業場でも変わりません。このため、労働基準法上の時間外労働時間数とこの計算式による時間数は必ずしも一致しません。
また最近、「労働基準監督署が立入調査で、時間外手当の不支給を摘発」、「時間外手当の不支給による裁判で会社が敗訴」等の記事にも見られるように、把握されていない残業の問題も大きくクローズアップされてきています。
特に、自己申告制による労働時間の把握については、曖昧な労働時間管理となりがちで、「申告が面倒だ」、「上限がある」、「査定に影響がある」等の理由で実際は過小に申告されているケースが多いとされています。
ところが面接指導は、労働安全衛生規則第52条の3第3項の規定により「遅滞無く(概ね1ヶ月以内に)、面接指導を行わなければならない」と定められていますので、労働時間数の食違いについて確かめている余裕はありません。
結論から申し上げれば、まずは労働者の申出した時間数を尊重して、面接指導をおこなわなければなりません。
施行通達(平成18年2月24日付け基発第0 2 2 4 0 0 3号)においても、「時間外・休日労働時間の時間数について、事業者の把握している時間数と・・・労働者の把握している時間数との間に差異があり、かつ、その確定に時間を要する場合においては、健康確保の観点から、まずは面接指導を実施することが望ましいこと。」としています。
健康上の措置は一刻を争う場合もあります。時間外・休日労働時間数の確定に時間を要する場合においては、労働者の健康確保という面接指導制度の立法趣旨からも、まずは労働者の申出した時間数を尊重して面接指導を実施すべきでしょう。
また前記通達では、ご質問のようなトラブルが発生することを予想し、月100時間を超える時間外・休日労働をさせた事業場又はそのおそれのある事業場等においては、
- 労働者が自己の労働時間数を確認できる仕組みの整備
- 申出様式の作成、申出窓口の設定など申出手続を行うための体制の整備
- 労働者に対する体制の周知
を図ることを求めています。
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Q4-3.医師の面接指導を受けない労働者
労働安全衛生法第66条の8に基づく医師の面接指導について、会社としては、対象者全員に受けさせたいと考えていますが、労働安全衛生規則第52条の3によれば、面接指導は要件に該当する「労働者の申出」により行うものとなっています。
医師の面接指導を受けたくないという労働者に、この申出させるにはどうしたらよいでしょうか。
A4-3. 労働安全衛生法第66条の8は、過重労働・メンタルヘルス対策として、特に一定時間以上の時間外労働等を行った労働者を対象として、医師による面接指導等を行うことを事業主に義務づけたものです。
具体的には、「事業者は、1週当たり40時間を超えて行う労働が1月当たりで100時間を超え、疲労の蓄積が認められる者であって、面接指導に係る申出を行った者に対し、医師による面接指導を行うとともに、その結果に応じた措置を講じなければならない」というのが基本で、たしかに労働者が「申出」を行うことが要件となっています。
しかし「過労死」が社会問題化する中で、もともと生活習慣病と呼ばれていた脳・心疾患が、それが業務によって著しく増悪した場合には労災補償の対象になったり、民事損害賠償の対象になったりして、その意味ではもはや個人の問題とは言えなくなってきました。
つまり、使用者にはきちんと労働者の健康管理を実施し、過重労働によって病変が増悪しないように配慮する義務が課せられるようになってきたものですから、労働者が「申出」をしないからといって、安穏としてはいられません。
では、どうして労働者は面接指導を「申出」しないのでしょうか。様々なケースが考えられますが、原則は、申出をしない労働者の事情や目的にしたがって「説得」してゆくしかないと思います。
例えば、同法66条の8第2項但書きで、事業者の指定する医師でなく自分が希望する医師による面接指導を受け、その結果を証明する書面を提出することも可能とされていますので、該当する労働者に主治医がいる労働者の場合であれば、そうした方法を認めてやればよいと思います。