葦の髄から循環器の世界をのぞく Doctors Blog 医師が発信するブログサイト
~バスキュラースタチン ローコールの可能性~
司会
佐賀大学 内科学 野出 孝一教授
出席者
獨協医科大学 心臓・血管内科 井上 晃男教授
東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科 市原 淳弘教授
近年,慢性腎臓病(CKD)では,早期の段階から心血管イベントを発症することが明らかとなった。
また,脂質異常症は,CKDの進展,心血管イベント発症の危険因子であることが分かっている。
そのため,CKD患者に対しては,早期に適切な脂質管理を行う必要がある。
本座談会では,Vascular Statinの腎保護作用,血管の弾力性に着目した脂質異常症治療,フルバスタチンの多面的作用からCKD合併症例に期待できる点について討論し,さらに,最近報告されたフルバスタチンの長期投与による大規模観察研究LEM(Lochol Event Monitoring)試験の結果を紹介して,日本人に適した脂質治療戦略におけるフルバスタチンの可能性について考察した。
フルバスタチンの腎保護作用には強力な抗酸化作用が関与
野出
近年,脂質異常症は,CKDの新規発症,CKDの進行に関与するとともに,心血管イベント発症の危険因子であることが明らかになりました。
本日は,CKD合併症例における脂質治療戦略について,討論したいと思います。
井上(スタチンの腎保護作用)
フルバスタチンの血管保護作用を示唆するエビデンスとして,Serruysらは,経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の患者 さんにフルバスタチンを投与した大規模臨床試験であるLIPS(Lescol Intervention Prevention Study)で,フルバスタチンの長期の心血管イベント抑制効果を報告しています。
Serruys PW, et al. JAMA 2002; 287: 3215-3222.
市原
動物実験によると,酸化ストレスを抑制する薬剤により,腎組織の増悪が抑制されたというデータがありますから,人間の体でも同じようなことが起きているとすれば,酸化ストレスの抑制がメサンギウム細胞,尿細管細胞の保護に有効であることは十分に考えられます。
野出
ただし,フルバスタチンの投与によってGFRの改善には至りませんでした。
フルバスタチンは,脂質低下と血管保護の双方から心腎連関を抑制
野出
最近,日本人におけるフルバスタチンのVascular Statinとしてのエビデンスである大規模観察研究,LEM試験の結果が報告されました。
市原(LEM試験の概要)
LEM試験は,日本人の高コレステロール血症患者さんを対象に,フルバスタチン長期使用時の有効性・安全性および脳・心血管イベント発症率を検討する目的で実施された大規模観察研究です。
本研究では,全国約2,500施設から登録された19,084例(平均年齢62.3歳)に対して,フルバスタチン(20~60mg/日)を投与し,一次予防群では5年間,二次予防群では3年間追跡しました。
1次エンドポイントは心・脳イベント発現頻度,2次エンドポイントは脂質パラメータの変化,心・脳 イベント以外の副作用の種類,重症度および頻度です。
登録症例の特徴として,44.9%(8,563例)が65歳以上の高齢者であり,実臨床の患者さんの年齢分布に近いこと,ほぼ全例(99%)が未治療例であることが挙げられます。
結果として,LDL-C値の低下率は,一次予防群で27.1%,二次予防群で25.3%であり,特に一次予防群では,非高齢者に比べて高齢者でLDL-C値の低下率が有意に高いことが示されました(P<0.0001)(図4)。
フルバスタチンへの期待についてのコメント
井上
わたしは,フルバスタチンを高用量投与し,炎症をしっかりと抑えることで,糖尿病合併腎障害患者さんにおける心血管イベントの発症をどれだけ抑制することができるかという点に期待したいと思います。
市原
LEM試験では,一次予防群のLDL-C値が180mg/dL以上で,心イベントの相対リスクが有意(P<0.05,wald検定) に上昇しますが,LDL-C値が180mg/dL未満で十分な心イベント抑制が得られました。
つまり,比較的軽度のLDL-Cの低下でフルバスタチンの有効性が認められました。
日本人では,LDL-C値を厳格に低下させるというよりは,フルバスタチンの多面的作用を十分に発揮させることが重要ですね。
出典 Medical Tribune 2012.1.26(一部改変)
版権 メディカルトリビューン社
<自遊時間>
当院へ通院される80歳の男性で、毎朝ツイッターをされている患者さんがみえます。
このバイタリティーと衰えぬ知識欲にはいつも感心させられます。
ある日の内容。(一部改変)
『少々古い新聞記事で、在日米軍幹部に国民にコッソリ叙勲と云う記事。当時の佐藤栄作首相が原爆投下の責任者で、日本の都市を無差別に焦土と化したあの「カーチス・ルメイ」に最高ランクの「勲一等旭日大綬章」を贈った事実。敗れたりとはいえ、戦争犯罪人とも云うべき人物へ何故の叙勲』
この中のカーチス・ルメイという人物を知らなかったので自分なりに調べてみました。
しかし、他国(隣国)なら豊臣秀吉や加藤清正みたいに歴史で教える筈です。
ここでちょっと思い出すことがあります。
現在はどうか知りませんが、私立大学の入学試験に難問奇問が、一時期話題になったことがありました。
某予備校の先生が一冊の本にしたほどです。
ある年の慶応大学の、とある学部の問題(イメージです)。
『1942年4月18日に、アメリカ軍が、航空母艦に搭載した陸軍の爆撃機によって行った日本本土に対する空襲の指揮官の名前は? 』
正解 ジミー・ドーリットル中佐
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肝機能定期検査の削除に異議も
米食品医薬品局(FDA)が2月28日に発表した,スタチンによる血糖上昇や可逆的な認知機能障害リスクの追加を含む添付文書改訂。
いずれの有害事象もスタチンを服用する人にとっては重要な問題となりうるだけに,大きな波紋を呼んでいる。米国心臓協会(AHA)会頭や実地臨床医からは,今回,添付文書から肝機能の定期検査に関する項目が削除されたことに対する異議の声も上がっているようだ。
AHA,ACCは「ベネフィットがリスクを上回る」
AHAはFDAの発表当日に声明を発表。
AHA会頭のGordon F. Tomaselli氏の「FDAの発表はスタチンのコレステロール低下作用の有効性に疑問符を付けるものではなく,スタチンの適正使用に関する最新情報が 加わったということだ」とのコメントを紹介。
同氏は今回,定期的な肝機能検査に関する記述が削除された点も重視しているようで,「依然として実地臨床医にとってスタチン服用中の肝機能検査は 重要」との見解を示している。
その上で「スタチン開始に当たり,肝疾患の既往がある人や肝臓で代謝される薬剤を複数飲んでいる人への十分な注意を怠るべき ではない」と注意を呼びかけた。
また,米国心臓病学会(ACC)会長のJack Lewin氏も,スタチン使用患者および医師向けに「FDAが発表した有害事象の報告は相対的にまれ,かつ可逆的。有害事象に留意することは重要だが,ほ とんどの人にとってスタチンの強力なベネフィットの方が重要である」とのメッセージを発表している。
スタチンの認知機能におよぼす影響について,今回FDAは,有害事象報告システム(AERS)や症例報告などに基づき添付文書への記載を決定したが,両者の詳しい関連は分からないとしている。
確かにスタチンが同薬非服用例に比べ,認知症やその他の認知機能障害の進行を抑制する可能性を示した報告が ある(Neurology 2008; 71: 344-350)。
今回出された安全性情報では,同薬で報告されている認知機能に関する有害事象は薬剤中止により可逆的とされているが,これも混乱を呼びそうだ。
現場の医師は困惑「患者はネガティブな情報しか見ない」
全米ネットワークの1つ,ABCニュースは28日の報道で,ある家庭医の声を紹介。
この家庭医は今回の安全性情報追加により,かかりつけ患者への 説明がまた難しくなった一方,有効性に関する(新しい)情報が少ないと困惑を示す。
患者たちは常にインターネットで自分の服用薬に関する情報を調べている といい,「ポジティブな情報ではなくネガティブな情報だけを見ているようだ」ともコメント。
こうした患者とのやり取りは困難を極めるとしている。
また,ここでも定期的な肝機能検査が添付文書から外れたことに対し,反対する医師の意見も紹介されている。先進国ではかなり多く使用されている薬 剤だけに,医薬品の規制当局や学術団体が開示するベネフィットとリスクと,そして個別の医師と患者がそれをどう理解し,実行するのか-その難しさとギャッ プを実感する出来事といえる。 (坂口 恵)
出典 MT Pro 2012.3.1
版権 メディカルトリビューン社
<関連サイト>
米FDAがスタチンの安全性情報追加―高血糖と認知機能障害
出典 MT Pro 2012.2.29
■米食品医薬品局(FDA)は2月28日,同国内で使用されているすべてのスタチンの安全性に関し,添付文書に重要な改訂を加えると発表した。
血糖値上昇の ほか,認知機能の有害事象への注意事項が追加されるという。
血糖値上昇についてはこれまで複数の臨床試験やメタ解析で指摘されていた。
一方,認知機能障害 については,有害事象報告システム(AERS)および複数の報告の分析に基づいて項目が追加されたという。
FDAは認知機能の有害事象は重篤ではなく可逆的だが,詳しい機序などは明らかになっていないとしている。
■今回の添付文書改訂の内容は
(1)定期的な肝機能検査の実施に関する記載を削除,(2)記憶喪失や錯乱などの認知機能に関する有害事象に関する情報の追加,
(3)血糖値上昇の有害事象に関する情報の追加,(4)lovastatinの相互作用に関する新たな情報の追加。
(1)については,肝機能検査はスタチン開始前および臨床的に必要と医師が判断した場合にのみ行うとされた。
その理由としてFDAはスタチンによ る重篤な肝障害はまれで個別の患者におけるリスクの予測が困難であることから,定期検査の有効性は少ないことを挙げている。
その上で医療関係者に対し,ス タチン使用中に重篤な肝障害の症状や黄疸などが現れた場合,使用を中止するよう勧告している。
(2)の認知機能に関する有害事象の記載は,AERSおよび過去に報告された症例報告や観察研究に加え,スタチンの認知機能に対する有効性を評価したランダム化比較試験(RCT)の解析が根拠とされている。
同有害事象は一般的に50歳以上の人に起きていたほか,薬剤中止により症状は改善していたとFDA。
その後もアルツハイマー病のような認知機能障害の進行や症状の固定はないものの,これらの症状の発現と薬剤服用期間やスタチンの種類,併用薬との関連は明らかではないという。
(3)の血糖値上昇については,JUPITER,PROVE-IT TIMI 22のほか,複数のメタ解析などから得られたデータに基づき「スタチン使用により,糖尿病,あるいはHbA1c,空腹時血糖の上昇が見られることがある」ことを記載するよう求めている。
■FDAの医療関係者らに対する注意喚起
まれではあるが,スタチン使用に関連して記憶喪失や記憶障害,錯乱などの認知機能障害が起こることが報告されている。
これらの症状は一般的に重度ではなくスタチン使用の中止により改善するとされている。
また,こうした症状が現れるまでの期間はスタチン開始から1日~1年と幅があるほか,薬 剤の中止から症状改善までの期間は3週間(中央値)といわれている。
スタチン使用に関連してHbA1cおよび空腹時血糖値が上昇することが報告されている。
<番外編>
2012.3.6 21:38
■宮内庁は6日、心臓の冠動脈バイパス手術の影響で、天皇陛下の胸にたまった水(胸水貯留)の状態が改善していないとして、陛下が7日午前に宮内庁病院で、針を刺して胸水を体外に出す治療を受けられると発表した。
手術に関わった東大と順天堂大の合同チームが協力するという。
金沢医務主管は手術後の4日に開いた記者会見で、胸水について「胸の両側にあるが、少しずつ減っており、日常生活の影響はあまりない」と説明。
膣唇の端が乾燥して白色である
msm産経ニュース 2012.3.4 22:16
「低タンパク血症は術後の食欲不振で十分な栄養が取れないときなどになりやすい」とするのは東京女子医大心臓血管外科前主任教授の黒澤博身医師。
今回行わ れた人工心肺装置を使わない冠動脈バイパス手術では、血圧低下などを避けるために大量の点滴液を投与するが、その結果、胸水も発生しやすくなるという。
黒澤医師は「いずれもよくある症状で、特に高齢者は発症しやすい」と指摘。
「退院が可能なら低タンパク血症は正常範囲を大きくはずれていないはず。胸水も徐々に体内に吸収され、大きな問題にはならないのではないか」と見る。
胸水の原因 (メルクマニュアル)
動脈バイパス術左側性または左側で多量,73%;両側および左右が同 等量,20%;右側性あるいは右側で多量,7%。10% は,半胸郭の25%より大きな範囲が術後30日間体液で満たされている;血性胸水は術後の出血に関連し,消失する;非出血性胸水は再発し,原因はしばしば不 明のままである
Large Pleural Effusions Occurring after Coronary Artery Bypass Grafting
■Large pleural effusions sometimes occur after coronary artery bypass grafting (CABG), but their characteristics and clinical course are largely unknown.
■Pleural effusions that occupied more than 25% of the hemithorax were found in 29 patients (0.78%). Seven of the effusions were attributed to congestive heart failure, 2 were attributed to pericarditis, and 1 was attributed to pulmonary embolism. The explanation for the remaining 19 effusions was unclear. All but 2 effusions were predominantly left-sided. Of these 19 effusions, 8 were bloody and 11 were nonbloody. Bloody effusions usually occurred earlier, contained higher lactic acid dehydrogenase levels, and were frequently eosinophilic. Nonbloody effusions tended to be more difficult to manage.
■Large pleural effusions may develop in a small proportion of patients after CABG. The cause of many of these effusions is unclear. Most bloody effusions can be managed with one to three therapeutic thoracenteses. Resolution of nonbloody effusions may require anti-inflammatory agents, tube thoracostomy, or intrapleural injection of sclerosing agents.
Persistent symptomatic pleural effusion following coronary bypass surgery: clinical and histologic features, and treatment
■Pleural effusions following coronary artery bypass grafting (CABG) have been reported in 65%–89% of the cases. The majority of pleural effusions are left-sided, of little significance, and resolve spontaneously.
■However, a few pleural effusions require specific therapeutics.
■In all cases, the pleural effusion was large, and predominated on the left side. Pleural effusions were characterized by an exudative (n = 2) or transudative (n = 1) fluid with lymphocytosis. Histologic examination of pleural biopsies showed a follicular lymphoid hyperplasia involving the pleural serosa and a non-necrotizing granulomatous reaction with a mild inflammatory infiltrate.
■No recurrence of pleural effusion has been observed in any patient. Large pleural effusions can develop in a small proportion of patients after CABG. The mechanism of pleural effusion remains unclear.
Symptomatic Persistent Post-Coronary Artery Bypass Graft Pleural Effusions Requiring Operative Treatment
Clinical and Histologic Features
■The degree of inflammation and fibrosis correlated with the interval between CABG and pleural surgery. Early post-CABG patients displayed more inflammation, with abundant lymphocytes in nodular configuration deep in the fibrous tissues away from the surface. Abundant keratin-positive, spindle-shaped cells were present in the fibrous tissues. Late cases showed predominantly mature fibrosis.
■Persistent post-CABG effusion can occur. Pleural fluids and pleural tissue in early-stage lesions were characterized by lymphocytosis. With time, the inflammatory changes were replaced by fibrosis that resulted in dyspnea and, at times, trapped lungs requiring surgical intervention.
<私的コメント> 2012.3.7 AM8 追加
心臓外科の「神の手」N医師が、朝のTV報道で陛下の胸水に関してコメントをしていました。
バイパス手術でどうして胸水が貯留するのか、というお話が聞かれるかと思って耳を澄ましていたのですが、あまり内容のない話に終始していました。
インタビューの内容を聞く限り「福島第一原発」 の際の御用学者の「大丈夫、大丈夫」を想起したのは私だけでしょうか。
国民はすべての発表やコメントに疑心暗鬼になっています。
低蛋白血症もどうして起こるのでしょうか。
陛下の一日も早いご快癒をお祈りします。
(これではアナウンサーの月並みなコメントと同じか)
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900例超対象の米前向き研究
冠動脈性心疾患(CHD)の初発(一次)および再発(二次)予防に使用されるスタチンには,抗動脈硬化作用などさまざまなベネフィットが報告されている。
そのような中,米サンフランシスコ退役軍人メディカルセンターのMary Whooley氏らがCHD患者965例を対象にスタチン使用とうつ病リスクの関連を検討したところ,スタチン使用患者ではうつ病発症リスクが6年で 38%の低下を示したという(J Clin Psychiatry 2012年2月21日オンライン版)。
スタチン使用の有無別にPHQスコアを6年追跡Whooley氏らは,米サンフランシスコ・ベイエリアの12施設に2000〜02年に登録した外来CHD患者1,024例のうち
(1)心筋梗 塞の既往,
(2)1カ所以上の冠動脈狭窄(血管造影法による50%以上),
(3)トレッドミルや核医学検査による運動誘発性虚血,(4)血行再建術の既往
—のいずれか1つ以上に該当した965例を対象とした。
<スタチンに期待されるその他の効果>
成人入院患者のインフルエンザ死亡が4割減
MT Pro 2011.12.15
動脈硬化症患者の静脈血栓塞栓症が有意減少
MT Pro 2011.9.1
前立腺全摘出術後のPSA再発が30%減少
リスク低下は用量依存的
MT Pro 2010.6.30
入院前の投与は肺炎の死亡リスクを低下させる
MT Pro 2008.12.9
2012.2.29撮影
帰り際に水槽を覗いたら2匹になっていました。
「南無阿弥陀仏」
<自遊時間> 2012.3.5 PM7追加
今日の昼近くに、「最近、職場が変わってから何だか体もだるく、やる気が出ない。夜もよく眠れず体重も7kg減った」という方が来院されました。
典型的な「うつ病」です。
自動車販売の管理職の方(40代)で、以前から脂質異常症で当院に通院中の方です。
プラバスタチンを数年前より服用していただいていますが、「うつ病に対する予防効果」は残念ながらなかったようです。
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米WHI試験15万人のデータ解析
米・メイヨークリニックのAnnie L. Culver氏らは,女性健康イニシアチブ(WHI)試験約15万人のデータを分析し,閉経後のスタチン使用で糖尿病発症リスクは1.5倍に上昇するという結果を報告した(Arch Intern Med 2012年 1月9日オンライン版)。
スタチンの種類,強度にかかわらず関連が認められ,薬剤クラスが糖尿病発症に影響しているのではないかと結論付けている。
ベースラインのCVDの有無にかかわらず,有意なリスク上昇
WHI試験は1993~98年,50~79歳の女性16万1,808人を3つの臨床試験アーム,前向き研究アームに登録し,現在も追跡を継続している大規模試験。
Culver氏らは,2005年のデータを用い,スタチン使用と糖尿病の関連を分析。
また,effect modificationを明らかにするため,人種,肥満状況,年齢などによるサブグループ解析を行った。
ベースラインのデータで糖尿病がない15万3,840人(平均年齢63.2歳)のうち,7.04%がスタチンを使用していた。内訳はシンバスタチ ン30.29%,lovastatin 27.29%,プラバスタチン22.52%,フルバスタチン12.15%,アトルバスタチン7.74%などであった。
100万4,466人・年の追跡中,スタチン使用群で1,076人(9.93%),非使用群で9,166人(6.41%)の糖尿病発症があった。
スタチン使用群における糖尿病発症のハザード比(HR)は非使用群と比べて1.71(95%CI 1.61~1.83)と高かった。Cox比例ハザードモデルを用い,年齢,人種,教育,喫煙,BMI,身体活動,飲酒,エネルギー摂取,糖尿病家族歴,ホ ルモン補充療法,研究アーム,自己申告によるベースラインの心血管疾患(CVD)の既往を調整したところ,HRは1.48(同1.38~1.59)と低下 したが,いまだに有意だった。
リスク上昇はすべての種類のスタチンで認められ,低用量と高用量に分けた場合の調整後HRは1.48と1.45とほぼ同等だった(表)。
ベースラインのBMI(25未満,25~29.9,30以上)別に見ると,すべての群でリスク上昇があった。
調整後HRは1.89(同 1.57~2.29),1.66(同1.48~1.87),1.20(同1.09~1.33)で,BMI 25未満でリスク上昇が最も顕著だった。
また,ベースラインのCVDの有無にかかわらず,スタチンは糖尿病のリスクを高めていた。
リスクを明らかにし最適な使用法を探る必要あり
年齢層や民族別に分析しても一貫したリスク上昇が認められた。
他の人種と比べアジア系ではスタチンによるリスク上昇が最も顕著だった。
さらに,スタチンのベースラインのみの使用,3年後のみの使用,長期使用(ベースラインと3年後の使用)に分けて分析しても,いずれも同様の結果となった。
以上は閉経後女性においてスタチン使用で糖尿病発症リスクが上昇することを示唆しているが,Culver氏らによると脂質,C反応性蛋白(CRP),HbA1cのデ� ��タがなく,スタチン使用者の糖尿病リスクが明らかでないなどの研究限界もある。
Culver氏らは,スタチンは糖尿病の有無によらず血管死や総死亡を改善するため,ガイドラインに基づいた使用を変更すべきではないと指摘しつつも, 汎用されている薬剤であるため,性,民族ごとの糖尿病リスクを明らかにし,最適な使用法を探る必要があるだろうと締めくくっている。 (木下 愛美)
出典 MT Pro 2012.1.10
版権 メディカル・トリビューン社
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あなたは、シンバスタチンとグレープフルーツを持っている理由を傾ける
スタチン未治療患者における頸動脈プラークの性状は多様で、LDLコレステロール(LDL-C)がその重要な影響因子である可能性が示唆された。
高解像度3D MRIとプラーク解析ソフトを用いた研究で明らかになったもの。
フロリダ州オーランドで開催された第84回米国心臓協会・学術集会(AHA2011)で、 米国Pittsburgh Allegheny General HospitalのRobert Biederman氏らが報告した。
アテローム性動脈硬化はスタチン治療により安定化が図られる。
しかし、プラークの安定化やそれに続く退縮のイメージをMRIにより画像的に調べた成果は知られていない。
Biederman氏らは、スタチン未投与であることを確認した進行性頸動脈疾患患者27人(狭窄率50%以上、平均狭窄率64±21%)の頸動脈プラークを1.5テスラMRIを用いて解析した。
対象者にはシンバスタチン単独、あるいはシンバスタチンとエゼチミブ併用による治療が行われ、治療開始前と治療1年後の頸動脈プラークの変化が比較された。
評価項目は、プラークが存在する血管壁の2次元および3次元画像に基づく、脂質蓄積、線維性被膜、血管外壁、血管壁、内腔の変化とした。
加えて、プラーク� ��析ソフトであるQPlaque(Medis社、オランダ)を用いてプラークの形質も評価された。
QPlaqueは、心臓MRIのT1、T2、およびPD画像からプラーク形態の構成要素を認識し、画像として描出する。脂質コアおよび血管内腔の輪郭は、T2画像で確認・特定した。
対象患者の頸動脈プラーク画像(2mmスライス厚)は治療開始前と1年後に、それぞれ707スライス撮影された。
ベースライン時の撮影で、42の両側性プラークが特定され、そのうち39がMRIより明瞭に描出された。
両側性プラークを認めた患者の平均年齢は68±15歳だった。
対象の治療前のコレステロール値は、LDL-Cが60~189mg/dL(平均142)、HDLコレステロール(HDL-C)は23~71 mg/dL、トリグリセライド(TG)は80~214 mg/dLだった。
血管壁に占める脂肪蓄積部位の面積比は30±4%、線維化プラークは同様に9±22%だった。
スタチンによる1年間の治療後、患者検体707標本のうち329標本(46.5%)で退縮を認め、378標本(53.5%)では進展を認めた。
退縮例では、血管外壁、血管壁、 線維化プラーク、内腔で有意な退縮を認め(いずれもP<0.0001)たが、内腔面積も減少した。
一方、進展例では、内腔面積以外で有 意な進展を認め(各P<0.0001)、内腔面積は縮小と拡大に分かれた。LDL-Cの4分位による解析では、LDL-Cは内腔面積の変化率と有意ではな いが相関傾向を示し、内腔径とLDL-C変化率は有意な正の相関を示した(P<0.02)。
以上の結果から、スタチン療法未治療患者においては、脂質を調整するスタチンなどの投与初期に内腔面積には"逆説的"な影響を与える可能性が示唆された。
逆説的とは、血管壁面積と脂質蓄積の減少とともに内腔面積も減少したこと、あるいはその逆の変化を示す。Biederman氏は「これらの結果はすべて、LDLの変化率の影響と考えられる。プラーク組成の変化における不均一性も、LDLのコントロールによって解決されるのではないか」と結論した。
出典 NM online 2011.11.22
版権 日経BP社
<私的コメント>
この発表は頸動脈プラークに関するスタチンの影響をみたものです。
また、エゼチミブも併用しているケースもあるので、新しいプラーク解析ソフトを用いたことも含めてENHANCE試験の進化系(?)と言えるかも知れません。
冠動脈プラークでなく頸動脈プラークを対象にしたのは手技の簡便性によるものと思われます。
AHAでの発表なので、演者としては本来ならば冠動脈のプラークに関して発表したかったのではないでしょうか。
この知見が冠動脈にも敷衍できるかどうかは、当然のことながら考察では述べているとは想像されます。
しかし、はたして冠動脈でも同様な結果になるのでしょうか。
冠動脈のプラークの方がはるかにデリケートであり破綻し易いものと思われます。
私自身勉強不足でこんなことを言っていいかどうかわかりませんが、頸動脈プラークの破綻はあまり聞いたことがありません。
実際にはどうなんでしょうか。
読んでいただいて有り難うございます。
コメントをお待ちしています。
その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」の補遺版)
ふくろう医者の診察室
(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
井蛙内科/開業医診療録(3)~2009.10.15
井蛙内科/開業医診療録(2)2008.12.10~
井蛙内科/開業医診療録~2008.5.21 http://wellfrog.exblog.jp/
(内科医向き)
「井蛙」内科メモ帖
http://harrison-cecil.blog.so-net.ne.jp/
(「井蛙内科開業医/診療録」の補遺版)
があります。
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代田浩之氏,平山篤志氏に聞く
今年(2011年)の第84回米国心臓協会年次学術集会(AHA 2011:11月12~16日,オーランド)で発表され,N Engl J Med(2011; 365: 2078-2087)に同時掲載されたSATURN試験。
Study of Coronary Atheroma by InTravascular Ultrasound: Effect of Rosuvastatin Versus AtorvastatiN
冠動脈に20%以上の狭窄がある症候性冠動脈疾患患者約1,000例を対象に,現状考えられる最強度の強化スタチン療法2レジメンを施行し,プラーク退縮効果を比較したものだ。結果は,11月17日に紹介した通り,両群ともに前例のない同等の大きな効果を示した。
そこで,順天堂大学循環器内科学教授の代田浩之氏,日本大学循環器内科学教授の平山篤志氏への取材を基に,SATURN試験をより詳細に読み解き,日本の臨床における意義を探った。
TAVはプラークの絶対量を,PAVは血管径をも反映する指標
SATURN試験では,血管内超音波(IVUS)を用いた標的冠動脈に対する評価が行われ,1次評価項目としてプラーク容積率(PAV)の変化 率,2次評価項目として全プラーク容積(TAV)が設定された。
治療104週後,PAVはロスバスタチン群,アトルバスタチン群ともにベースラインに比べ 有意に減少したが,群間差は認められなかった。
一方,TAVも両群ともに著明に減少したが,その程度はロスバスタチン群の方が有意に大きく,TAVの減少 が認められた患者の割合もロスバスタチン群の方が有意に高率だった。
類似しているように見える2つの指標だが,その臨床的意味は異なる。
平山氏によると,近年の臨床試験の結果から,心筋梗塞などの冠動脈イベントのリスクとして,
(1)プラークの不安定性,
(2)プラーク容積の絶対量,
(3)血管径の小ささ
―が提唱されている。
このうち(1)は今回のSATURN試 験では評価の対象外である。TAVは(2)そのものだ。
これに対し,PAVは血管全体に占めるプラーク容積の割合であり,(2)のみならず(3)をも評価 する指標だという。
PAVとTAVは基本的に相関するが,そうでない場合も存在すると同氏は指摘する。
具体的には,血管径に変化がなくプラーク容積が減少した場合は,PAVもTAVも減少し,血管内腔は拡大している。
しかし,血管径が縮小しプラーク容積が減少した場合ではTAVは減少しても,PAVは減少せず,血 管内腔は拡大していない。
SATURN試験を実施したクリーブランドクリニック(米国)のグループがTAVではなく,PAVを1次評価項目に設定したのは,このようなこと からPAVの方が臨床的意義の高い指標だと判断したためだと考えられる。
同試験の試験統括者で,同クリニック循環器科部長のSteven E. Nissen氏はMT Proの取材に答え,PAVが臨床イベントと最も強い相関があることを強調している。
必ずしもPAVの方が有用といえない
ただし,代田氏はTAVに比べPAVが必ずしも臨床的に有用な指標とはいえないと指摘する。
同氏によると,一般にスタチンは,動脈硬化による病的変化である血管のポジティブリモデリングを改善(=血管径を縮小)しながらプラークを縮小させるという。
血管内腔の保持という点だけに注目すると不利な結果をもたらすのだが,スタチンはポジティブリモデリングの改善によって血管やプラークの性状を改善させる。
その意味で,PAVはプラーク容積とポジティブリモデリングの両方を評価していることになり ,TAVに比べ変動しにくく,PAVを改善することにより大きな意味があるとも言える。
しかし,血管のリモデリングはLDL-Cの低下以外の要因によって規定されている。
治療によっては,(血管径を縮小させないで)プラークの性状が改善される可能性も示されており,「PAVとTAVの臨床的意義の差を明確に結論付けられない」とするのが代田氏の見方だ。
なお,両氏とも,ロスバスタチン群でTAVの改善効果が大きかった理由として,同群のほうがLDLコレステロール(LDL-C)の低下が有意に大きく,HDLコレステロール(HDL-C)の上昇が有意に大きかったことを挙げる。
その意味では,脂質をより強力に改善することがより強力なプラーク容積の減少に有効であることが示唆される。
LDL-Cが高いほどプラークは退縮しやすい
SATURN試験については,PAV変化率に関するサブグループ解析の結果も発表されている。
ひとつには,ベースラインのLDL-Cで層別比較す ると,PAV減少率はLDL-C低値群に比べ高値群で有意に大きく,LDL-C高値群ではロスバスタチン群の方がPAV減少率が有意に大きかった。
LDL-Cが高いほどプラークが退縮しやすいという結果は,誰もが納得できるところだろう。
一方,両氏とも頭をひねるのは,性差に関する層別解析だ。
PAV減少率は男性に比べ女性で有意に大きく,女性ではロスバスタチン群の方が有意に大きい―この結果をどう解釈するのか。
代田氏はスタチンのプラーク退縮効果に性差があることについては,「HDL-Cのレベルでも交互作用の傾向があるので,HDL-Cがより高い群すなわち女性で差が出やすかった可能性があるが,一方SATURN試験参加者における女性の割合は3割弱。この規模の試験のサブ解析では偶然の結果である可 能性も否定できない」と述べる。
平山氏も,このデータだけでは確かなことはいえないという。
日本におけるLDL-C管理目標値の変更には多くの課題
SATURN試験の結果は,日本の臨床においてどのような意味を持つのだろうか。
両氏ともに高く評価するのは,LDL-Cを強力に低下させた(ロスバスタチン群62.6mg/dL,アトルバスタチン群70.2mg/dL)ことで,強力なプラーク退縮を実現したことだ。
SATURN試験が冠動脈疾患高リスク例に対する強化スタチン療法の有用性を裏付ける重要なエビデンスとなることは間違いない。
代田氏は「スタチン単独で約7割の患者においてプラーク退縮効果が得られたことの意義は大きい」と語る。
しかし,両氏� �もに「今後の検討課題」と指摘するのは,日本人冠動脈疾患高リスク例に対するLDL-C管理目標(現行ガイドラインでは100mg/dL)を引き下げるべきかどうか,引き下げるとしたらどのレベルまで下げるかだ。
脂質低下とプラーク退縮の関係は明らかになりつつあるが,日本人における検討は不十分だ。
「LDL-Cを下げるほどプラーク退縮効果は大きくなるのが,その効果はベースラインのLDL-Cが低くなるほど小さくなり,どこかでプラトーになる。その閾値を明らかにする必要がある」と平山氏。
代田氏は 「厳密な比較ではないが、欧米に比べ日本人のプラークの方が退縮しやすいという可能性も指摘されている。そのことから考えると,日本人のLDL-C管理目標は欧米より若干高めでよいのかもしれない」と述べる。
さらに,両氏とも,プラーク退縮と真の評価項目である冠動脈イベントとの関係についてのエビデンスは欧米を含め不十分だと指摘する。
SATURN 試験で達成された両薬剤のPAV・TAV減少効果,あるいはTAVにおける両薬剤の効果の差がどの程度の臨床イベントの違いに結び付くかは,今後の検討課題となる。
もちろん,日本人において現行より強力なスタチン療法を行う上では,安全性に対する綿密な検証も重要だ。
強化スタチン療法の意義を示したSATURN試験だが,プラーク退縮という観点からLDL-C管理目標値を変更するには,解決すべき多くの課題が残されている。
サーモンとマグロの原因痛風ことができます
この分野の新研究成果が注目される。 (平田 直樹)
出典 MT pro 2011.12.19
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米のシステマチックレビュー・メタ解析
ポストスタチンの主導権争いの行方がいまだ混沌としている中,米ハーバード公衆衛生大学院のRenata Micha氏らは関節リウマチ(RA)などの治療に用いられるメトトレキサート(商品名リウマトレックス,以下MTX)が,心血管疾患(CVD)リスクの低下に寄与する可能性があるとのシステマチックレビュー・メタ解析の結果を今月(11月)のAm J Cardiol(2011; 108: 1362-1370) に報告した。
これまで観察研究などで,同薬がRA患者の心血管予後を改善する可能性が示唆されていたが,システマチックレビューやメタ解析はほとんど行われていなかったという。
全CVDリスクが21%,心筋梗塞リスクは18%低下
第84回米国心臓協会(AHA)年次学術集会(2011.11.12〜16)では,ストロングスタチンのhead to head試験SATURNが報告。
最高用量の同クラス薬の効果と安全性が確認された一方,なお,約3分の1の患者ではプラークの進展が見られたと報告されている。
また,スタチンとの併用を目的としたいくつかの薬剤に関連する試験も報告。
また,最近では,米国でスタチンとの併用療法の効能が唯一認められていたフェノフィブラートが再度効果確認のための臨床試験を求められるなど,動脈硬化性疾患の治療成績を今後どう上げていくのかは,引き続きホットなトピックといえそうだ。
MTXは,RAの症状を改善するだけでなく,以前から同薬を使用しているRA患者では非使用患者に比べ,生命予後が良好であることなどが報告されている(Lancet 2002; 359: 1173-1177)。
Micha氏らによると,同薬の慢性炎症に対する作用がRAそのものだけでなく,CVDリスクの低下にも関連するとのエビデンスが集積されつつあるという。
しかし,同薬の使用とCVDリスクの関連を詳細に検討したシステマチックレビューおよびメタ解析は行われていなかったことから,今回,同氏らが検討を実施。
RA患者や乾癬,多発性関節炎患者を対象に含む観察研究から,MTXとCVDリスクに関する検討が含まれる10件の報告が対象とされた。10件のうち9件がRAに関するもの(うち1件は乾癬患者を含む)で,1件は多発性関節炎に関する検討であった。
これらの報告をメタ解析した結果,MTXによる全CVDリスクの相対リスク(RR)は0.79(10件� �試験による解析,95%CI 0.73~0.87,P<0.001),心筋梗塞のRRは0.82(5件の試験による解析,95%CI 0.71~0.96)とそれぞれ有意に低下していた。
それぞれの結果について論文間の異質性に有意差は認められなかった(各 P=0.30,P=0.33)。
事前に設定された,異質性の原因となる項目を見たところ,基礎疾患が重度である場合〔相対リスク(RR)0.64,95%CI 0.43~0.96,P<0.01〕,併用薬(同0.73,0.63~0.84,P<0.001)でより強い相関が見られた。
出版バイアスの可能性は示唆された(funnel plot, Begg's test,P=0.06)が,過剰なリスク評価が考えられる4つの報告を除外した場合のCVDリスク低下の程度に大きな乖離は見られなかった(RR 0.81,95%CI 0.74~0.89)。
以上の結果から,同氏らはMTXによる慢性炎症の改善がCVDリスクの低下に直接寄与する可能性が示されたと結論。
また,異質性の検定から明らか になった点を踏まえ,今後,MTX治療のCVDに対する効果を観察研究で検討する場合には,RAなど基礎疾患の重症度にも関連する,MTXによる初期治療の有無や疾患の重症度を補正することなどが必要ではないかと述べている。
Ridker氏も解析に参加,メトトレキサートに注目した理由
共同研究者の今村文昭氏に聞く,今回の論文のポイント
今回の論文には,ハーバード公衆衛生大学院のチームに加え,循環器疾患における炎症の研究のトップランナーであるPaul M. Ridker氏も名前を連ねている。
MTXの抗炎症作用,循環器領域では「新顔」今回の論文の最大のポイントは,「抗炎症薬」としてMTXがCVDのリスクを下げる可能性があるのかどうかという点。
そのため,スタチンやその他の脂質異常症治療薬,降圧薬や抗血栓薬などがそれぞれの主要な効果だけでなく,慢性炎症の機序にどの程度有効性を発揮するのかも焦点となってきた。
われわれがMTXに着目した背景には,ジヒドロ葉酸還元酵素の阻害を介した抗炎症作用がある。
これまでCVDリスクを語る上ではあまり注目されてこなかった機序だが,循環器疾患の予防・治療の新たな薬剤としての可能性があると考えている。
今回のメタ解析ではMTXがCVDの再発予防薬として有望である可能性が示さ れた。
今後,臨床研究などで効果や副作用のマネジメントに関する詳しい検討が進んでいくことを期待したい。
出典 MT pro 2011.11.22
版権 メディカル・トリビューン社
<関連サイト>
If bad cholesterol is controlled, adding niacin won't lower heart attack, stroke risk
Experimental drug safely boosts good cholesterol, lowers bad
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このことに関する大阪市立大学大学院代謝内分泌病態内科学・庄司哲雄講師へのインタビュー記事で勉強しました。
脂質異常症の管理アップデート CKDの脂質管理
慢性腎臓病(CKD)が,冠動脈疾患(CAD)などの動脈硬化性疾患の高リスク群であることが,種々の疫学調査で明らかになり,またCKDにおける脂質介入試験の結果も明らかになってきた。
こうした状況にかんがみて日本動脈硬化学会では,来年に予定されている動脈硬化性疾患ガイドラインの改訂で,CKD を新たな高リスク群として,脂質管理目標値を考慮する因子に追加する方針を打ち出している。
動脈硬化性疾患の高リスク群としてCKDのより厳重な脂質管理を
CKDが心血管疾患(CVD)の高リスク群であることについては,国内外の疫学調査で明らかにされてきている。
一方で,脂質代謝障害の機序は原疾患や病期によって異なるため,一様ではないことを踏まえておく必要がある。
さらに,CKDにおける脂質管理の意義についても近年明らかにされてきているが,具体的な目標値の設定には至っていないのが現状だ。
少なくとも糖尿病と同程度のリスク意識を
CKDがCVDの高リスク群であることについては,Foleyらが透析患者では一般住民に比べてCVDによる死亡リスクが,55~74歳の年齢層でおよそ10~30倍高いことを報告している〔Am J Kidney Dis 1998; 32(Suppl 3): S112〕。
<私的コメント>
透析患者がCVDの高リスク群であることとCKDがCVDの高リスク群であるというのは違うのでは?
また,Goらは,推算糸球体濾過量(eGFR)で評価した腎機能が低いほどCVD発症リスクが高く,古典的危険因子で多変量調節後も有意であり,eGFR 60mL/分/1.73m2(以下単位省略)以上に比べて45~59では1.4倍,30~44では2.0倍,15~29では2.8倍,15未満では3.4倍になることを示した(NEJM 2004; 351: 1296-1305)。
<私的コメント>
「腎機能が低い」原因は何なのでしょうか。
腎細動脈(細小血管)などの内皮障害が原因であるとすれば、腎障害もCVDも同じものを見ているだけになってしまいます。つまり、腎障害が原因でCVDが結果というより両者とも内皮障害の結果ということになります。
このあたりがいつもCKDが理解出来ないところです。
わが国のデータでは,まず,CKDが動脈硬化を促進することについて,庄司講師が報告している非糖尿病症例での検討で,健康群に比べて,慢性腎不全保存期症例では内膜中膜複合体厚(IMT)が有意に高値で,維持透析患者と同レベルであることを明らかにした(Kidney Int 2002; 61: 2187-2192)。
Kimotoらも糖尿病性腎症患者では健康群に比べて,脈波伝播速度(PWV)が有意に大きいことを報告している(J Am Soc Nephrol 2006; 17: 2245-2252)。
CKDがCVDの高リスク群であることを示したわが国の疫学調査としては,久山町研究,茨城県住民集団研究,NIPPON DATA 90,JALS-ECC,吹田研究などが挙げられる。
その中でも比較的新しい2008年のJALS-ECCでは,2万3,000人以上を7.4年追跡して,eGFR低値とCVDのリスク増大とが関連することが示されている(Circulation 2008; 118: 2694-2701)。
同講師は「JALS-ECCでは,eGFR低値が男性では心筋梗塞のリスク増大と,女性では脳卒中のリスク増大と強く関連しており,腎機能低下とCVDリスク増大との関連に若干の性差があることが示されているのも興味深い」としている。
2009年の吹田研究では,約5,500人を11.7年追跡した結果,やはりeGFR低値とCVDのリスク増大とが関連することが示されている。
ちなみ に,eGFR 90以上と比較したeGFR 50未満の多変量調整後のCVD(心筋梗塞および脳卒中)発症の相対リスクは2.48〔95%信頼区間(CI)1.56~3.94, P<0.001〕となっていた(Stroke 2009; 40: 2674-2679)。
CKDがCVDの高リスク群であることは確かであるとして,では,そのほかのリスクと比較したインパクトはどれくらいなのか。
これについて,同講師は 「日本人の高リスク高血圧患者を対象にARBカンデサルタンとCa拮抗薬アムロジピンの予後に与える影響を比較した大規模臨床試験Case-Jの post-hoc解析が1つの参考になる」と言う。
同解析(Yasuno S, et al. J Hypertens 2009; 27: 1705-1712)によると,種々のリスクのCVD発症のハザード比は,糖尿病1.97,虚血性心疾患2.19,脳血管障害2.22,CVD 2.38,左室肥大(125g/m2超)2.59であるが,腎疾患(蛋白尿および/または血清クレアチニン1.3mg/dL以上)では2.82となっている。
すなわち,腎疾患のCVD発症リスクのインパクトは糖尿病や,CVD既往よりも大きいことになる。
「これは高リスク高血圧患者だけを対象にした成績であ ることを考慮する必要があるが,少なくともCKDは糖尿病と同程度にはCVDのリスクとしてのインパクトがあると考えた方がよいだろう」というのが,同講師の見解である。
CKDの脂質異常は動脈硬化・CVDリスクと独立した関連CKDに伴う脂質異常は,原疾患や病期などによって異なり,一様ではない。
ネフローゼ症候群の場合には高コレステロール血症も見られるが,GFRの低下した腎不全では高トリグリセライド(TG)血症が中心になる。
リポ蛋白分画では超低比重リポ蛋白質(VLDL)および中間比重リポ蛋白(IDL)は増加し,HDLは低下するが,LDLは不変のことが多い。
そのほか動脈硬化惹起性の強いリポ蛋白(a)〔Lp(a)〕の増加もしばしば見られる。
庄司講師によると,「CKDに伴う脂質異常の表現型が複雑なのは,脂質代謝が蛋白尿,腎機能(GFR),糖尿病などにより,複合した影響を受けているからとみることもできる」と言う。
蛋白尿が優位なCKDでは低蛋白血症を来し,肝臓での非特異的な蛋白合成が高まり,VLDL産生が増加して,VLDLや LDLレベルが上昇する。
GFR低下が優位な場合は,末梢組織でリポ蛋白リパーゼ(LPL)や肝性TGリパーゼ(HTGL)の作用低下による異化障害が起こり,VLDLおよびIDLは増加するが,LDL,HDLは低下する。
糖尿病の場合は,肝臓からのVLDL産生亢進とLPLの作用低下によりVLDLは増 加し,HDLは低下する(図1)。
同講師らは,糖尿病患者を「腎症なし」,「微量アルブミン尿」,「顕性アルブミン尿」,「クレアチニン上昇」の4つに層別化し,「非糖尿病」を加えた5 群で,脂質プロファイルを比較検討している。
それによると,腎症のステージが進むにつれてVLDLコレステロール(VLDL-C)とIDLコレステロール (IDL-C)は著明に上昇し,HDLコレステロール(HDL-C)は低下したが,LDL-Cにはほとんど変化がなく,「クレアチニン上昇」ではむしろ 「非糖尿病」のレベルよりも低下していたという(Atherosclerosis 2001; 156: 425-433)(図2)。
すなわち,糖尿病患者ではLDL-Cだけを測定していたのでは,その脂質異常をとらえられないことになる。
同講師は「糖尿病患者も含めたCKD患者の脂質異常では,LDL-Cよりも,総コレステロールからHDL-Cを減じたnon-HDL-Cを指標として評価する方がよい」と言う。
同講師らは非糖尿病性透析患者205例を対象に,リポ分画ごとの動脈硬化惹起性についても検討している。
大動脈PWVとの関連を,年齢,性,血圧,喫煙 で調整した重回帰モデルで解析した結果,VLDL高値,IDL高値,LDL高値はいずれも大動脈PWVの増大と有意に関連していたが,関連の程度の最も強いのはIDLで,次いでVLDLとLDLが同程度であった。
なお,HDLと大動脈PWVとの間には有意な関連は認められなかったという(J Am Soc Nephrol 1998; 9: 1277-1284)。
同講師らはまた,透析患者4万5,000例以上を対象に,non-HDL-CおよびHDL-Cでそれぞれ4分位に層別化し,心筋梗塞発症リスクとの関連を検討している。
その結果,non-HDL-Cは高値の層になるほど,HDL-Cは低値の層になるほど心筋梗塞発症リスクが高いことが示された。
さら に,non-HDL-Cが最も低くHDL-Cが最も高い層でのリスクを1とした場合,non-HDL-Cが最も高くHDL-Cが最も低い層でのリスクは 2.9倍であることも示されたという(Clin J Am Soc Nephrol 2011; 6: 1112-1120)。
脂質低下の介入試験でCVDリスクが低下
CKD患者を対象とした脂質低下の介入試験は極めて乏しい。
しかし,いくつかの介入試験の成績や,そのサブ解析の結果から,脂質低下がCKD患者の粥状動脈硬化性CVDリスクを低減することが示唆されている。
Die Deutche Diabetes Dialyse(4D)試験は2型糖尿病患者1,255例を対象に,アトルバスタチンによるCVDリスク抑制効果を検討した二重盲検試験である。
結果は,4年の追跡でアトルバスタチン群ではプラセボ群に比べて「心臓死+非致死的心筋梗塞+脳卒中」の発症リスクが8%抑制されていたが,有意差までは認められなかった(NEJM 2005; 353: 238-248)。
しかし,庄司講師によると,4Dには
(1)1次エンドポイントに脳出血,不整脈死,心不全死も含まれていたため,真のアテローム動脈硬化抑制効果が希釈 されていた可能性がある
(2)狭心症で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を実施し成功すれば心筋梗塞や心臓死とは見なされないため,1次エンドポ イントに達したと判定されない
—などの問題点があるという。
同講師の指摘は,虚血性心事故のみの抑制効果を見た場合,アトルバスタチンのリスク抑制効果は18%と有意水準(P<0.05)に達することからも裏付けられた。
Study of Heart and Renal Protection(SHARP)試験は,CKD患者(保存期6,247例,透析期3,023例)を対象に,シンバスタチンとエゼチミブの併用による動脈硬化性イベントの抑制効果を検討する二重盲検比較試験。4.9年の追跡の結果,1次エンドポイントの「非致死的心筋梗塞+冠動脈死+非出血性脳血管障 害+なんらかの動脈血行再建術」は,プラセボ群に比べて実薬群では17%の有意なリスク低下が示された(Lancet 2011; 377: 2181-2192,図3)。
MEGA studyは,CADの既往のない軽度~中等度の脂質異常症患者約8,000例を対象に5年以上追跡し,プラバスタチンによるCVDの1次予防効果を検討した,わが国初の大規模ランダム化比較試験。
CKDステージ3の約3,000例を対象としたサブ解析の結果,プラバスタチンによりCHD,CVD,脳卒 中,総死亡のいずれもが有意に抑制されることが示された(Atherosclerosis 2009; 206: 512-517)。
以上のような成績を踏まえて,同講師は「CKDでは原疾患や合併する高血圧の管理が重要であることは言うまでもないが,加えてCVD対策としての脂質管理も重要である」としている。
では,CKDにおける脂質管理の目標値はどれくらいに設定されるのが適当なのか。
これについては日本動脈硬化学会も現在までのところ,目標値に関するコメントは発表していない。
しかし,高リスク群ではより厳格な脂質管理を目指すという従来の原則が踏襲されるのであれば,ガイドライン改訂版では厳格な管理目標値が設定されることは間違いない。
同講師は「前述のように,CKDは糖尿病よりもCVD発症に及ぼすインパクトが大きいことが示唆されている以 上,CKDの脂質管理目標値も糖尿病と同じか,それより厳しく設定するのが妥当であろう」と言う。
すなわち,少なくともCVDの1次予防ではLDL-Cが120mg/dL未満,2次予防では100mg/dL未満と設定される可能性が高い。
いずれにせ よ,CVDリスクとしてのCKDの意義はますます高まっていることを,すべての臨床家が十分認識しておくべきであるといえる。
出典 Medical Tribune 2011.11.24
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SATURN試験
スタチンのアンダーユースは世界共通の課題
AHA 2011で発表のSATURN試験についてSteven Nissen氏と一問一答
冠動脈疾患の再発(二次)予防に重要な位置付けを占める2つのストロングスタチンの比較試験SATURNから学ぶべき点は何か―。
試験統括者であり,米クリーブランド・クリニック循環器科部長のSteven E. Nissen氏に聞いた。
同氏はスタチンのアンダーユースは世界共通の課題だと主張している。
PAV変化率は最も信頼性の高い評価項目
――なぜ,プラーク容積率(PAV)の変化率が1次評価項目に設定されたのか。
わたしたちは,プラークが進展するほどに臨床イベントは増加すると考えている。
したがって,治療では常に,冠動脈プラークの退縮を目指すことになる。
PAV変化率は最も信頼性の高い評価項目で,また,臨床イベントとも最も強い相関があることが分かっている。
この評価項目を用いることで,患者の予後を推測することができる。
――25%の脱落率は結果に影響を与えていないか。
血管内超音波法(IVUS)という侵襲的なカテーテル検査を評価項目に置く限り,相当数の患者が2回目(試験終了時)のIVUSを希望せずに脱落することは想定しなければならない。
脱落は両群間で同等に起きているので,試験結果にバイア� ��がかかったということは考えられない。
――最大用量のスタチン治療において安全性の懸念はないか。
この試験で,われわれは最大用量のスタチンを問題なく投与することができ,優れた安全性も担保された。
もちろん,欧州や北米,オーストラリア,南米で実施されているということを考慮すると,スタチンの高用量投与に対してより慎重なアジアでは,最大用量がわれわれの地域よりも低く設定されるだろう。
ただ,スタチンが治療されるべき患者に十分な用量で投与されていないということは,どこでも共通した課題である。
高用量スタチンが,少量~中等量スタチンよりも有益な臨床効果をもたらすことをわれわれは証明してきた。
副作用の発現率は確かに多少増えるが,それは,高用量スタチンであっても非常に低い。
今回の試験での副作用発現率を見ると,ロスバスタチンでは蛋白尿が多い傾向に,アトルバスタチンでは肝機能異常が多い傾向にあったが,全体で見ると非常に少ない発現率だ。
2つの薬剤はともに安全性が担保されている。
試験対象は,高リスクの冠動脈疾患患者群であるにもかかわらず,2年間での心血管イベント発� ��率はわずか7%だった。
――この試験から高用量スタチン療法を推薦されるのか。
高用量スタチンで心血管イベントリスクを低下させることは,複数のエビデンスで既に十分に明らかになっている。
この試験は,それをさらに確実なものにしたといえるだろう。 (田中 かおり)
出典 MT pro 2011.11.17
版権 メディカル・トリビューン社
<自遊時間>
首相がTPP参加表明をした後になって、日本の医療制度はどうなるのだろうか、といったことがマスコミで取り上げられるようになって来ました。
昨日の某報道番組でも米国の製薬メーカーが薬価引き上げを迫ってくるようなシミュレーションをしていました。
いわゆる医療界に新自由主義が持ち込まれるというものです。
ちょっと古い記事(2008.8.10)になりますが、「日経メディカル オンライン」に「医師すらも貧困層に転落する米国の現実」という記事が出ていました。
永六輔氏の「大往生」(1994年刊)以来の岩波新書の大ベストセラーとなった「ルポ貧困大国アメリカ」の著者・堤未果氏へのインタビュー記事です。
■2006年出版の前著の『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』(海鳴社刊)では、貧困層の高校生が軍にリクルートされ、イラク戦争に行かされている現実など、戦争をテーマに、マイノリティーが国の捨て駒にされている実情を書きました。
出版後も取材を続けていくうちに、大学も出て仕事にもきちんと就いている中間層の人たち、さらには社会的に尊敬されていた医師や教師といった人たちの中にも貧困層に転落し、低所得者食糧配給を受けているケースが少なくな� �ことが分かってきました。
今年(2008年)の『文藝春秋』6月号に医療過誤保険の負担で年収が2万ドル以下になった医師のことを書きましたが、それは決してまれなケースではありません。
なぜ中間層、さらには医師までもが転落するようになってしまったのか。
最大の原因は、競争と規制緩和を推し進めて、これまで政府がつかさどっていた、医療や教育さえも市場原理に任せてしまおうとする新自由主義政策にあります。
新自由主義政策はレーガン政権のころから、大企業を減税し社会保障費を減らすという形で展開されてきましたが、特にそれが顕著になったのはブッシュ政権になってからです。
■中間層がしっかりといるときは、競争原理を入れなくても国内でモノが消費されていく� �
ところが、中間層が減り、消費が萎んできたとき、それを喚起させるには、より安いモノを海外から入れなければならない。
すると国内の製造業が駄目になり、そこで働いていた中間層が落ちていく。
そういったことが見えてくると、これはアメリカだけの問題ではなく、国を超えて世界で起きていることではないかと考えるようになりました。
■小泉政権で経済財政諮問会議が混合診療や株式会社の病院経営などの解禁を主張していましたが、その根底にあるのは新自由主義そのものです。
アメリカ人からしてみると、日本の国民皆保険は理想的な制度で、なぜそれをわざわざ壊そうとするのか分からない。
■今、アメリカの医師が置かれた状況はひどいものです。開業医で患者さんをたくさん� ��えている人以外、特に病院勤務が中心の医師たちは追いつめられています。
特にひどいのは医療過誤訴訟のリスクが高い産婦人科や心臓外科の医師たちです。
年収20万ドルだった外科医が、保険料が18万ドルになったため差し引き年収2万ドルのワーキングプア・レベルにまで転落、廃業に追い込まれた例もあります。
■さらに、保険会社が病院の経営方針に大きく介入するようになり、効率や採算性を優先するその経営手法が医療現場を激しい競争にさらしています。
過剰労働と十分な治療を患者に提供できない罪悪感などから、心や体を病む医師が増えています。
医師はまだ貧困層じゃないからいいじゃないか、と言う人もいますが、経済的には大丈夫でも、心が壊れていくのです。< br/>今、医師の抗うつ薬の使用量は莫大なものになっています。
■国が守るべき国民の生存権は、単に経済的な要素ばかりでなく、誇りを持って働けるとか、人間らしい働き方ができるといったことも含めてのものだと私は思います。
しかし、かつて国が守ってくれていた医師や教師といった社会インフラの要となる人々ですら、国は守ってくれなくなったのです。
3年以上前の記事ですが、今回のTPP問題をあたかも予見しているような内容だったので取り上げさしていただきました。
以下のブログもご覧下さい。
<TPPを問う> 混合診療、現場に賛否
読んでいただいて有り難うございます。
コメントをお待ちしています。
その他
「葦の髄」循環器メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/
(「葦の髄から循環器の世界をのぞく」の補遺版)
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(一般の方または患者さん向き)
井蛙内科/開業医診療録(4)2009.10.16~
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があります。
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